取組み内容

私は、アメリカ合衆国における核開発による環境破壊と、人種差別、植民地主義、政治経済的な格差構造の関係について研究を行ってきた。ウラン開発、核兵器の開発・製造・実験、放射性廃棄物の処分関連施設の候補地とされる現場には、軍事・経済超大国において、国家安全保障のためには「切り捨て可能」とみなされた土地、そしてその場所で生活する人びとがいる。
なかでも、「辺境」へと追われたその場所が、核開発の現場とされてきた先住民族がたどる苦難の道のり、生存に向けた闘いの営み、そして彼らの物語から、私は多くを学んできた。
2020年に岩波書店から出版した『「犠牲区域」のアメリカ 核開発と先住民族』は、第9回河合隼雄学芸賞を受賞した。選評においては、日本社会の状況に重なるところが多い、という指摘があった。
持続可能な社会を実現するには、弱い立場にある人たちも、環境政策決定過程に主体的に関わることのできる仕組みづくりからはじめていかなければならない。地理学研究者としては、差別や格差の空間構造、その歴史的な文脈をあきらかにしながら、学生や同僚とともに考える作業を、明治大学を拠点に、これからもつづけていきたい。

長崎に投下された原子爆弾に使われたプルトニウムは、マンハッタン計画の拠点のひとつ、米ワシントン州ハンフォード・サイトで生産された。近くを流れるコロンビア川には、核汚染が広がった。この美しい川は、地元の先住民族にとって、ありとあらゆる生命の源だ。
いまは国立歴史公園の一部となっているハンフォードのB原子炉を訪ねた。茫漠とした砂漠に立つ、廃墟と化した核施設と星条旗、そして青い空と乾いた風を思い出す。
1990年代以降2000年代にかけて、高レベル放射性廃棄物中間貯蔵施設の受け入れを検討した、ユタ州スカルバレー・ゴシュート・インディアン居留地。社会地理的に孤立した部族は、連邦政府からの研究資金、電力会社が支払う土地賃貸料、雇用機会に、地域開発の可能性を探ろうとした。